撮影/松永和章(Agence SHOT)
一度も後悔したことはない
08年にV・プレミアリーグの強豪チームであるパナソニックを退社し、ビーチバレーへの転向を決意した今井啓介。以後、WINDSに入団し、西村晃一とともに国内外を転戦してきた。国内ツアーでは、JBVツアー第3戦で4位入賞、JBVサテライト神津島大会で優勝を果たしたが、シーズンの後半戦は、一度も表彰台に上がることはできなかった。
「自分の中では、想定内の結果です。よく周りから、JBVツアーの第4戦東京オープンで西村さんが長谷川(徳海)と組んで決勝までいったことについて、『どう思ってる?』と聞かれるんですけど、なんとも思わないですよ! 西村さんの実力を考えれば、トップクラスの選手と組めば当然勝てるでしょう。負ける原因が俺、というのは、初めからわかっていたことだし。だから一番引っかかっていたのは、当たり前のように勝っていた西村さんが負けること。それに対しては、申し訳ないという気持ちが大きかったですね」
その気持ちは、自分自身をコントロールできないくらい膨れ上がっていく。シーズン後半にはプレッシャーと化し、今井の肩に重くのしかかった。
「シーズンの前半は、勝ち負け関係なしに自分らしさを活かして、思いっきりプレーできていたと思います。けれど、ビーチバレージャパンあたりから、西村さんの要求も高くなって、勝ちにこだわるようになった。当然、西村さんが考える理想のプレーに応えたいんですけど、今の自分ではそれに応えられなくて……、ますます自分のプレーができなくなっていきました…。現状では5位という成績でしたけど、9月のふくいカップのときは限界にきていましたね」
そんな状況に全く焦りはなかった、と言えば、嘘になる。今井は、「早く上手くなりたい」という想いを、日々の練習、フィジカルトレーニングにひたすらぶつけた、しかし、知らず知らずのうちに疲労が蓄積し、体が悲鳴をあげた。
「自分が上手くなるためには、他の人よりもトレーニングをやらないと追いつかない…。そう思って詰めてやっていたら、自分の限界を超えてしまったんです。JBVツアー第4戦の前日。練習中、なんら耐えられるジャンプだったんですけど、体が疲れきっていたことで脚の力が入らなくて、捻挫してしまったんです。それが治っても、また年末に肉離れを起こしてしまった。筋力を上げるため、どんなにきついトレーニングをやったとしても、ケガをしてしまうとトレーニングを持続できないので、途端に体がプシューってしぼんじゃう。結局、ケガが治ってトレーニングしても、またケガをして、またプシューとしぼんで…。その繰り返しでしたね」
年末に起こした肉離れを完治させるため、しばらくの間はリハビリに専念することを決め、ビーチから姿を消した。そして同じ時期に、一年間所属してきたWINDSとの選手契約が解除となり、一人身となった。
次々に立ちはだかる壁。今季の戦積は想定内だったとは言えど、ここまで苦難が重なれば、嫌気が差すのではないか。
「それはないですわ~。ケガをしようが、予選で負けようが、アマチュアの選手に負けようが、一度もビーチバレーをやめようと思ったことはないですね。『もう無理…』とかも思ったことはないし、そこまで落ちたこともない。ビーチバレーに転向したことを、一度も後悔したこともないですよ」
ハナから中途半端な気持ちで、ビーチにきたわけではない。今井は、すべてを捨てて、この場所にやってきたのだ。
「中途半端な気持ちだったら、パナソニックをやめていないですよ。ビーチにきたときから、オリンピックを目指していますから。最初から、そこだけを向いています。それくらいの覚悟がないと、大企業をやめられないですよ(笑)。Vリーグの選手の中でも結構ビーチバレーをやりたい、興味があるという選手がいるんですけど、会社を辞めてビーチにこられるものならきてみろって思いますね。それくらいの気持ちがあるのかって言いたいです(笑)」
撮影/松永和章(Agence SHOT)
2年目のテーマ
決死の覚悟を持って臨んだ昨季は、「世界と戦える体づくり」を念頭に置き、いくつもの壁を乗り越えながら、土台作りに励んできた。2年目の今季は、その上にどんな花を咲かせようとしているのか。「パナソニックに顔を出したときも『体、大きくなったな』と言われるくらい、だいぶ土台はできてきましたね。今季は、新たに目標を作るというよりも、昨季学んだ教訓をクリアできるか、が課題。自分をしっかりコントロールして、ペース配分を心懸けていきたい。それがわかっただけで、一年目はよかったです。そこを越えれば、また、新たな目標が見えてくると思います。技術面では、少しずつビーチバレーとインドアバレーの違いをようやく実感できました。とは言っても、砂と風、そして暑さの3つの特性を、自分はまだ活かしきれていない。試合をこなすたびに『風がこう吹いているから、こうなる』とか徐々にわかってはきたけど、味方にできていないですね。経験のある選手は、やっぱりその特性を活かしていますよ」
しかし、その一方で、初めての国際大会となったワールドツアーでは、「怖さを感じなかった」と豪語する。
「『お前、何言うとねん?!』って言われるかもしれないですけどね(笑)。ワールドツアー三亜オープン(10月26日~31日)の予選1回戦でロシアと戦ってフルセットで負けたんですけど、俺の微々たるミスが原因で勝負所の瀬戸際でセットを取られてしまった。差はそこだけだから、地味な練習をしっかりやっていけば、同レベルだと思ったんです。ロシアの選手は背はでかいですけど、バレーは上手くない…。俺が言うのもなんやけど(笑)」
今季の新パートナーは、国内大会では決勝進出常連の畑信也。「ロンドン五輪を目指すために、ワールドツアーにまわりたい」という想いが一致し、準備が整えばワールドツアーに参戦する意気込みだ。
「信也とは、同い年だし昔から仲がよかったんです。昨年までは、お互いペアを分かれるなんて思っていないし、普段の会話の中で『ワールドツアーにまわりたい』という信也の気持ちを聞いたことがありました。でもそのときは、人のことまで考える余裕がなかったから、『へ~そうなんだ』って聞いているだけでした。ところが、年末になってお互いフリーになった。そのときに信也の言葉を思い出して、『お前ワールドツアーに行きたいって言っていたよな』って声をかけました。あいつもまだパートナーが決まっていなかったので、お互い『やってみようか?』ということになりました。世界を視野に入れて、信也は『お前を育てる』と言ってくれています(笑)。昨季は自分のキャラクターが途中から死んでいたので、今季は常にリラックスして自分らしさを思いっきり出していきたいですね」
身長196cm。朝日健太郎に続く高さを活かしたダイナミックなプレーは、果たして見られるのか。今井にとって『リスタート』となる春は、もうすぐやってくる。
撮影/坂本清
PROFILE いまい けいすけ
1980年2月5日生まれ。30歳。兵庫県出身。
身長196cm。洛南高、中央大出身。







